a-dollのブログ

忘れたくない日々のあれこれの記録

大滝秀治の芝居

観劇をした感動の余韻が疲れた身体を熟睡へと誘ってくれた。
お陰で今朝は元気はつらつで目が覚めた。
古典落語の『らくだ』は死人が踊るというナンセンスな話である。数年前に歌舞伎でも中村勘三郎がくず屋の役をやって(これは夫と松竹座で観た)むちゃくちゃ面白かった。
今回の民藝公演では、別役実大滝秀治の為に幾つかの落語を下敷きにして書き下ろした新しい『らくだ』なのである。
幕開け、金屏風の前に座布団が敷いてあって、出ばやしとともに大滝扮する長屋の大家さんが紋付羽織で扇子を片手に登場。「一席お付合い願います・・・」と落語が始まるやいなや、そこからどたばた汚い襤褸を着た貧乏長屋の店子連中が出入りし、落語は中断する。
店子が家賃を溜めても見逃す様な気のよい大家さんだったが、道楽息子に騙され書き付けを取られてしまったため、たちまち住む家も追われ着物も身ぐるみ剥がされた揚げ句、くず屋になってしまうのだ。

さて、ワルの「らくだ」は悪巧みをしている業突く張りの大家夫婦に河豚の毒味役にされて死んでしまう。
怒った「らくだ」の兄貴分は死んだ「らくだ」の身体をを抱えて「かんかんのう」を踊らせて大家夫婦を追いつめに行く。
大家からぶんどった酒を最初は辞退していたくず屋だったが、しぶしぶ飲み始めるや次第に酔いが回ってくだを巻き始め「らくだ」の兄貴分にからみ出す。
この場面は圧巻だ。
どたばた劇の合間を縫って「お陰参り」の連中が柄杓を振りながら奇妙な踊りを踊りながら「えらいやっちゃ、えらいやっちゃ」と通り過ぎて行く。不気味なシーンである。

その内くず屋は死んでしまうが、しばらくして本当に踊り始める。可笑しい様な不気味なかんかんのう。
最終場面は、巡礼となった孫娘(唯一清らかな愛らしい役)が鈴を振って「巡礼にご報謝〜」と歩むのと、くず屋が「くずや〜おはらい〜」と言いつつすれ違う場面で静止して幕となる。
これまで大滝秀治の芝居は沢山観て来たが、このくず屋の大家さんの役は最高だ。少ししわがれた声で「くずや〜おはらい〜」と籠を背負って歩く姿は他の役者では想像がつかない程大滝にぴったりだと思う。今回観る事が出来て本当に幸せだった。

芝居とは別だが、新しいABCホールは始めてだった。小さいけれど中々良いホールで、今日の様な芝居にはぴったりだと思った。
会場では古い友達(私が民藝の世界に引きずり込んだ合唱団の友達)にも沢山出会って一緒に帰ったので、電車の中でもおしゃべりして楽しかった。
唯、ここでも「いつもご主人と一緒だったのにね」と言われてしまった。