終戦後すぐは、ピアノは売っていなかった。
音楽に目覚めたM子姉の「ピアノ買うて〜」のシュプレヒルコールに、たまりかねた父は、知り合いから蔵に入れてあったために戦災で焼け残った古いピアノを譲ってもらった。
家には足踏みオルガンがあったが、それではピアノの練習は出来ないとM子姉は父に迫ったのだった。
そのピアノは前面両側に燭台がついて譜面台も中に収納してある本当に古いもの。
姉はそのピアノで毎日練習をして、ついに音楽学校に入学をしたのだった。
そのピアノが昨年亡くなった兄の家のリビングルームに長年インテリアとして置いてあったが、姪が家を相続したのでついに要らない物、廃棄処分リストに上がってしまった。
可哀想なピアノ。
姪が「誰も要りませんか?」と親戚中に聞いて回ったら、M子姉の娘Hが引き取りたいと手を挙げた。
彼女は骨董好き。その上母を大切に思っているので、母が青春時代に弾いていたピアノを引き取ろうと思ったみたい。
いずれ修理して弾けるようにしたいという。
実家に住んでいた昔、M子姉が気が向いたらピアノを弾いて、妹たち3人が歌ってコーラスを楽しんだ。
「希望のささやき」とか「四つ葉のクローバー」などなど。
何時間も姉妹たちだけのコンサートの時は流れていた。
懐かしい思い出があるピアノなのである。