何と寒い四月。
ソメイヨシノは蕾をまた固く閉じてしまったことだろう。
寒い春に思い出す事がある。
ずっと以前、友人の別荘に招かれたことがあった。
別荘の周りにはぐるりと桜の木が何本も植えてあって、見事な桜が見られると楽しみにしていた。
ところが今年のようにやはり寒くて当日はまだ蕾が固かった。
広い庭に赤い毛氈を掛けた床机が並べられて、プロの料理人が作った見事なご馳走やお酒が用意されていた。
立派な別荘で地下室のワインセラーも見せてもらった。
招かれた客は 30人ほど。
花はなくてもそれなりに楽しく愉快な宴であったが、花だけは彼の財力で持っても咲かすことはできなかったのだった。
その後、しばらくして彼の会社が倒産し、別荘も手放したと聞いた。
そして数年後に亡くなられた。
桜の季節になっても寒い時は彼のことを思い出す。