ミーコの思い出
戦争中は猫を飼う余裕がなく、家も昭和15年に建てたばかりで鼠はいなかったのだと思う。
終戦後、物置や台所に食糧が少しづつ増え備蓄されだした頃、鼠もどこかの家から引っ越して来たのかも知れない。
天井裏でゴソゴソ小動物が動く気配が始まりだしたのだろう。
私は小学校5年生になっていた。
新しくクラス替えがあって、友達も新しい友達ができた。
新しい友達Kちゃんは、お父様が開業医、お母様は歌人で後に小説家になったというインテリ一家族の次女だった。
歌も上手、スポーツも得意、絵も上手に描く・・・その上美人だった。
「家に遊びに来て」と誘われて遊びに行った。
食べ物のない時代だったけれど、お母様は手作りの水羊羹などでもてなして下さった。
彼女の家には美しい猫が居た。
子猫も居て家中を走り回って障子紙を破って桟の間を通り抜けていた。
可愛い美しい猫が欲しくなって母にねだった。
母は猫が嫌いだったけれど、天井裏の鼠退治に必要だし、
「美人やし物凄い賢い猫ちゃんよ、とKちゃんのお母様が言うてはった・・・」と母を説き伏せてもらうことになった。
母は鰹節を1本持たせてくれた。
小さな子猫は確かに賢くまた優雅な歩き方をしたので「Kちゃんのお母さんの言いはった通りや」と思った。
つけた名前が「ミーコ」
戦前から代々我が家の由緒ある(?)ねこの名前を継いだのだった。
ミーコはたちまち鼠取りの名人に成長した。
廊下の天井板を一枚ずらして開けるやると、ピョンと飛び上がって入り、しばらくしたらだ、だ、だ、と派手な音をさせて、鼠を咥えて廊下へトンと降り立った。
見事な狩の仕方。
これはうちのクルミちゃん。
鼠を捕ったことは無いよ。